注目のリリースが続き、BillboardやNME、Rolling Stoneなど国外の音楽専門メディアでも年間ベスト盤に多くの韓国音楽作品が選出された2024年。
K-MUSICでは、韓国の音楽シーンに精通する人物たちに今年のベスト作品を紹介してもらった。
Writer:内畑美里
Artist:HWI
Album:humanly possible
遂にこのような音楽が出てきたのかと、衝撃を受けた一作。電子音楽という言葉で括るにはどこか物足りない。もっと前衛的で、芸術的で、吐息を感じる生っぽさがHWIの音楽と言えよう。本作では、彼女の名刺代わりとも言える「Your My Past Lives」をはじめ、SF感溢れるコンテンポラリーなエレクトロ・ミュージックが収録されているが、既存の音楽に囚われず、'音楽'というツールで自己表現を行うHWIの底知れぬポテンシャルに終始圧倒されてしまう。今後の飛躍を確信する、文句なしの2024年ベストアルバム。
Artist:Room306
Album:Petite Jungle
新譜を心待ちにしていた韓国のサウンド・チームRoom306。最新作では、我々を小さな森へ案内する5つの道を用意してくれたようだ。公式のオーディオヴィジュアルと共にアルバムを聴くと、曲ごとに指定された終わりなき森を歩くことができる。なぜ曲名の数字がバラバラなのか、数字が抜けているのか、明確な答えは無く、リスナーに解釈の余白を持たせたコンセプトが面白い。電子音楽とジャズを掛け合わせた音楽スタイルは以前よりも鋭さが増し、まるで森の中で深呼吸をするような、澄んだ空気の美しさを感じる作品。
Artist:Sailor Honeymoon
Album:Sailor Honeymoon
まさにコリアン・ライオット・ガール!〈DIYポスト・パンク・バンド〉と称す彼女らのミュージック・マインドは一貫している。1曲目「Bad Apple」が意味するように「あらゆる差別や偏見を許さない・傷つける人は排除する」と示す彼女たちの音楽にどれだけ力をもらい、「PMS Police」の歌詞でどれだけ共感をして、そして笑ったか。Bikini Killのようなキャッチーさで駆け抜ける20分は、自分にとって心のセーフスペースのような安心とパワーを与えてくれる。これからも大切な作品として聴き続けるだろう。
Writer:山本大地
Artist:Soumbalgwang
Album:Fire and Light
前作が韓国大衆音楽賞のモダンロック・アルバム部門を受賞した、釜山を拠点とする4人組バンドの3作目。高速ギターストロークや今にも暴れ出しそうなドラミングなどバンド名(直訳すると「ノイズ発狂/発光」)に似合った演奏はメンバーが変わっても健在。同ジャンルの先輩、Kuang Programのチェ・テヒョンがプロデュースし、演奏の静と動のバランス、ノイズ・サウンドの響きは適度に調整。ボーカル、カン・ドンスの全身全霊の叫びは、普遍的な感情となって、言語や環境の違いを超えて聞き手に届く。このアルバムであなたも、「怒り」、「絶望」を一緒に燃やそう。
Artist:HYPNOSIS THERAPY
Album:RAW SURVIVAL
アンダーグラウンドのクラブで聴くようなテクノ、ハードコア的なビートに、狂気のように吐き出されるラップが聴く人に衝撃を与える、ラッパーのチャンユ、DJ・プロデューサーのJflowから成る2人組。韓国大衆音楽賞へのノミネートを果たした前作発表の頃から、怒涛の勢いで国内外でのライブを行いファンベースを拡大させている。よりハードに突き詰められた今作はタイトルの通り、彼らの持ち味であるライブの生のエネルギーが存分に伝わってくる。パンクやハードコアのファンにもこのアルバムでモッシュピットを作ってほしい。
Artist:HANRORO
Album:HOME
TOMORROW X TOGETHERやテヨン(少女時代)の楽曲にも作詞や作曲で参加するなど注目の24歳の2枚目のEPは、「アメリカにビリー・アイリッシュがいるなら、韓国にはハンロロがいる」なんて表現をするのも決して過言ではないと思えるくらい、頼もしい。キャッチーなポップロック・サウンドと、歌を引き立てるアレンジの演出も見事で、それだけでもリスニングが楽しいが、彼女は文学的な表現がユニークな歌詞も魅力だ。食物連鎖のように互いに傷つけ合い、分断し、燃え続けるこの土地は、本当に私たちが愛する家なのだろうか?リード曲からラストの”補修工事”まで。常識が覆され、ガタガタと揺れ動く社会を見つめる韓国Z世代の気持ちを代弁しているよう。
Writer:Chilsung
Artist:RM
Album:Right Place, Wrong Person
BTSのリーダーRMの2ndソロアルバム。ヒップホップを軸に様々な音楽ジャンルや言語を行き来する、ときに不調和を感じさせながらも美しくユニークなサウンドに、RMの人生観が投影される。また彼のアイデンティティが感じられるのはここだけではない。本作は豪華な参加アーティストも話題になったが、Balming TigerのSan Yawnなど国内シーンの才能が基盤を支え、フューチャリングにLittle SimzやMoses Sumner、クレジットにnever young beach、岡田拓郎、下中洋介(DYGL)などが名を連ねるこの布陣は、韓国のアンダーグラウンドな音楽シーンで活動を始め、国内外でアーティストとしてのキャリアや人脈を着実に築いてきた彼だからこそ実現できたものだろう。2024年最高傑作。
Artist:Meaningful Stone
Album:Angel interview
2020年リリースのアルバム「A Call from My Dream」でも大きな話題を生み、韓国大衆音楽賞新人賞も受賞したMeaningful Stone = キム・トゥットル2枚目のフルアルバム。今作では、そのインディーポップをベースとした爽やかな音像は残しつつも、アルバムは徐々にシューゲイズやドリームポップのようなサウンドへ展開していき、アルバムを聴き終える頃には彼女に音楽ジャンルをラベリングすることができなくなる。彼女の表現の引き出しは一体どこまであるのか、無限の可能性を期待させる意欲作。出演映画『ケナは韓国が嫌いで』は2025年3月からの日本公開も決まっており、今後音楽だけに留まらない様々なフィールドで彼女の才能を目にできそうだ。