韓国の“ネオ民謡バンド” OBSG(オバンシングァ)が、9月 17日に東京・WWWで初の日本単独公演を行った。
2019年に活動を開始した OBSGは、“国楽界の異端児”イ・ヒムン率いる 10人編成のバンド。京畿民謡の正統な継承者であるイ・ヒムンが、民謡をロックやディスコなど様々なジャンルと掛け合わせて表現し、韓国インディー界に新たな風を吹かせている。メンバーは RM(BTS)のソロ作品への参加やロックバンド・SE SO NEONのサポートで知られるドラムのキム・ヒョンギュン(Drs)や、NST & The Soul Sauceのリーダーでもあるノ・ソンテク(Bass)など、個性豊かな顔ぶれだ。
初の来日公演ということで、WWWのフロアに集ったオーディエンスの表情は、開演前から一様に期待感に満ちていた。まずは文筆家の大石始による DJと、林家あんこによる落語が、観客の心と体をほぐしていく。林家は「神様が出てくる落語を」というイ・ヒムンのリクエストを受けて、和歌の神様が登場する「鼓ヶ滝」を披露。最後には南京玉すだれを自在に操って盛り上げた。
いよいよ OBSGのライブへ突入。先に入場した楽器隊のメンバーは一様にキラキラと輝きを放つタイトな子を被り、サングラスを着用した統一感あるスタイルだ。そこへ現れたイ・ヒムンは、真紅のボディスーツに、大きな羽根を頭に着けたゴージャスな姿。この衣装は、 88年に美空ひばりが東京ドーム公演で着用したドレスをイメージして、今回の来日公演のために用意したものだそうだ。アフロヘアにシルバーのロングドレスをまとったサブボーカルのチョ・ウォンソク、ヤン・ジンスがイ・ヒムンの両脇に立つと、より華やかさを増す。
1曲目は「어허구자_Euheuguja」。強烈なエネルギーを内包するイ・ヒムンの歌声と軽快なビートに、客席のボルテージはどんどん上がっていき、早くも大合唱が起こる。またギターのカッティングが心地よい3曲目の「싧은민요_Killed Damn Song」では、イ・ヒムンとサブボーカルの 2人が左右にステップを踏んでダンス。キャッチーでダンサブルな楽曲や安定感のある演奏も魅力だが、サウンドだけではなく視覚的に楽しめるポイントが多数盛り込まれているのも、OBSGのライブが多くの人を惹きつける理由だろう。
イ・ヒムンは学生時代に日本の専門学校に留学していた経験があり、日本語も堪能だ。「だいぶ使ってないから(日本語を)だんだん忘れちゃったんだけど、我慢して?もう、適当にね!」「もっと若い頃に来てたらもっとすごかったんだけどね。歳取っちゃって、体力がなくて……」と謙遜して笑わせつつ、終始チャーミングな M Cで観客とコミュニケーションを楽しむ。
この日 OBSGは、美空ひばり「真赤な太陽」と山口百恵「夏ひらく青春」と、日本の楽曲を 2曲披露。「真赤な太陽」はイ・ヒムンが留学中にカラオケでよく歌っていた思い出の楽曲だといい、本家へのリスペクトを感じさせる、ソウルフルな歌声が響いた。
イ・ヒムンが中座し、衣装チェンジを行っている間は、バンドメンバーがセッション。細かなストロークもまったくブレない芯のあるキム・ヒョンギュンのドラムや、ワウペダルを自在に操るソン・ランヒのギターソロなど、それぞれの巧みなプレイが冴え渡り、オーディエンスの熱は冷めることがない。
10曲目の「....._ Eorang Blousy」では、トランペットのユナパルとイ・ヒムンが向かい合い、ムーディーな世界観を表現。イ・ヒムンは体を自在にくねらせて情熱的に歌い上げ、大人の魅力を放った。また中盤からは、イ・ヒムンが紹介した「...(チャランダ /上手い!)」という韓国語のフレーズを、観客がメンバーに向けて繰り返し投げかけるようになり、アットホームなムードが流れた。
ライブの後半になっても、まだ緊張しているというイ・ヒムン。東京公演の 2日前に愛知・豊田市で出演した『橋の下世界音楽祭 -SOUL BEAT ASIA 2024-』ではそこまで緊張を感じなかったそうだが、思い出の地である東京の舞台は特別なのか、「なんか地元に帰ってきたような気がして……」と感慨深そうに語っていた。メンバー紹介は、パーカッションのソン・ヨンウが担当。“スマイリー”というニックネームを持つ日本語が堪能な彼が、とっておきの笑顔でメンバーの名前を順に呼んだ。
アンコールで披露された「아라리요 _ Arariyo (Disco Ver.)」「지화자좋아_So good」まで、18曲を終始エネルギッシュに届けたOBSG。終始フロアは笑顔で満ちており、観客の年齢層は幅広く、中には子供を肩車して体を揺らしている人も見られた。年齢や性別、肩書きなどにとらわれず、そこにいるすべての人がただ音楽に身を委ね、自由に歓声を上げるさまは、祝祭のような心地よさがあった。
「次(の来日)がいつになるかわからないから、今日はいっぱい歌わせてもらいます(笑)」と、冗談めかして何度も語っていたイ・ヒムン。だが彼らのライブを目撃し、明るいエネルギーを全身で浴びた誰もが、「すぐにまた来日してほしい!」と感じていることだろう。
Setlist
- 어허구자(Euheuguja)
- 아파몰라꽈악(Hurt me, Tell me, Squeeze me)
- 싧은민요(Killed Damn Song)
- 간다 못 간다(Let go, won't let go)
- 무슨짝에(Whatʼs the point)
- 真っ⾚な太陽/美空ひばり
- 夏ひらく⻘春/⼭⼝百恵
- 나리소사(Narisosa)
- 개소리말아라(Gaesori Marara)
- 어랑브루지(Eorang Blousy)
- 노래, 가락(Norae, Garock)
- 나나나나(Nananana)
- 밀양밀양(Milyang-Milyang)
- 얼씨구 두른다(Jang Taryeong)
- 사설 난봉(Sasul Nanbong)
- 허송세월말어라(Heosongsewol Maleola)
Encore
- 아라리요(Arariyo[Disco Ver.])
- 지화자좋아(So good)
Writers
- 岸野恵加
Photographers
- 熊谷直子